個別映画評
死刑台のエレベーター
Ascenseur pour L'echafaud

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年代 | 1957年 |
国 | フランス |
時間 | 92分 |
監督 | ルイ・マル |
脚本 | ロジェ・ニミエ、ルイ・マル |
音楽 | マイルス・デイヴィス |
出演 | モーリス・ロネ、ジャンヌ・モロー、ジョルジュ・プージュリ、リノ・ヴァンチュラ、ヨリ・ヴェルタン |
当時まだ25才だった監督ルイ・マルが世に送り出したサスペンス映画の快作である。なお、ルネ・クレマンの名作「禁じられた遊び」で、主人公の少女ポーレットの唯一の友だち“ミッシエル”を演じていたG・プージュリが、この作品でちょっとニヒルで向こう見ずな青年として登場するのも楽しみなところである。
開巻、電話ボックス内で受話器を握り締め、思いつめたように語りかける、J・モローの顔のクローズ・アップから物語は始まる。そこにかぶさるマイルス・デイヴィスのけだるさ漂うトランペットも秀逸で、一気に話しに引き込まれてしまう。社長夫人のフロランス(ジャンヌ・モロー)が愛人ジュリアン(モーリス・ロネ)に夫殺しを依頼するこのファーストシーンは、アンリ・ドカエの陰影豊かなカメラと相まって、脳裏に焼きつく素晴らしいオープニングだ。ジュリアンは計画どうり、自殺に見せかけて社長を殺害する。しかし、現場に証拠のロープを残したことに気づき、取りに戻るがエレベーターに閉じ込められてしまう。あいにく、週末の午後で月曜までエレベーターは動かない。さらに悪いことに、道路に止めていたジュリアンの車が、若いアベックに乗り逃げされてしまうのだ。こうして、エレベーター内のジュリアンと、若者たちと、状況がまったく分からぬフロランスの、三者三様の視点で話は進んでいく。感心させられるのは、エレベーターの暗やみで脱出をこころみるジュリアンと、夜のパリ市街を、あてどもなくジュリアンを探してさまようフロランスが、画面の中で一度も顔を合わせないことだ。このプロットが、二人のどうしようもない焦燥感と不安感をひときわ高めることになり、観客にもストレートに実感させるのだ。物語はこのあと、若者たちが引き起こす事件で、思わぬ方向へ動き始める・・・。
全篇に流れるマイルス・デイヴィスのモダン・ジャズのセンスと、モノクロ画面のつやのある映像がドラマと絶妙にからみ合い、いかにもフランス製のサスペンス映画という趣のある作品となっている。
(2007/04/12)