個別映画評
ゼロ時間の謎
L'HEURE ZERO

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年代 | 2007年 |
国 | フランス |
時間 | 108分 |
監督 | パスカル・トマ |
脚本 | フランソワ・カヴィリオーリ、ナタリー・ラフォリ、クレマンス・ドゥ・ビエヴィーユ、ロラン・デュヴァル |
音楽 | ラインハルト・ワーグナー |
出演 | メルヴィル・プポー、キアラ・マストロヤンニ、ローラ・スメット、ダニエル・ダリュー、アレサンドラ・マルティネス |
名探偵ポワロやミス・マープルの生みの親でありミステリーの女王として、つとに知られるアガサ・クリスティー。彼女自身が自作の10本に選ぶほどの傑作推理劇の映画化だ。そして又、彼女ほどその作品の多くが映画化されたミステリー作家はいないだろう。コナン・ドイル、レイモンド・チャンドラー、エラリー・クイーン、などなど多くの作家がいる中で、ドイルが生んだ名探偵シャーロック・ホームズやチャンドラーの私立探偵フィリップ・マーロウはよく映画でお目にかかるが、そんな中での最多登場キャラクターは何と言ってもクリスティーの分身、エルキュール・ポワロでありミス・マープルと言っても過言ではないだろう。当時の推理小説には、あらかじめ犯人を示す手掛かりを文面に残し、その犯人探しを読者にゆだねる、という文章スタイルが流行っていて、(もっとも、いくら注意深く読んでも犯人に辿り付けたためしはなかったが……)クリスティー作品はほとんどこの手法を取っている。従って本作品も当然その流れで進行するのだが、おなじみのポワロやミス・マープルが登場しないのが本作の特徴でもある。
舞台となるのは、フランスはブルゴーニュ地方の海辺にある“カモメ荘”だ。この別荘に住む大金持ちの叔母カミーラ(ダニエル・ダリュー)の招待で、テニス選手のギョーム(メルヴィル・プポー)が再婚相手のキャロリーヌ(ローラ・スメット)を伴いやって来る。毎夏の恒例行事だが今年は違った。ギョームの前妻オード(キアラ・マストロヤンニ)も招かれていたのだ。さらに、以前からオードに惹かれていた親戚の男や、キャロリーヌの男友達も登場。莫大な遺産も絡んで険悪な空気がただよう中、招待客の老弁護士が殺され、続いて叔母カミーラまで殺害される事件が発生する……。物語は原作のもつ空気をうまくとらえ、クリスティーの世界を再現してみせる。しかし、出だしともなるプロローグの人物紹介を兼ねたエピソード部分のあいまいさが伏線を生かせず、全体の流れに水を差した感は否めないが、鑑賞後、まるで小説を読み終えた時のような充足感が残るのはうれしい。それにしても、クイーンの、聴覚を失くした名探偵ドルリー・レーンが主人公の映画はなぜ見当たらないのだろうか。
(2008/06/07)