個別映画評
フローズン・リバー
FROZEN RIVER

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年代 | 2008年 |
国 | アメリカ |
時間 | 97分 |
監督 | コートニー・ハント |
脚本 | コートニー・ハント |
音楽 | ピーター・ゴラブ、シャザード・イズマイリー |
出演 | メリッサ・レオ、ミスティ・アッパム、チャーリー・マクダーモット、マーク・ブーン・ジュニア、マイケル・オキーフ |
彼女が疲れた顔でなみだを流したのは、ギャンブル依存症の夫に全財産を持ち逃げされたからにほかならなかった。それは、彼女レイ(メリッサ・レオ)が、1ドルショップで働いて貯めたトレーラーハウスを買うためのお金だったからだ。その代金が支払期日までに払えなくなり、2人の子供たちともども途方に暮れるレイ。そんな時、夫を捜して訪れたビンゴ会場の駐車場で、彼女は夫のクルマを発見する。だが、そこに夫の姿はなく、クルマに乗っていたのは、モホーク族の女ライラ(ミスティ・アッバム)だった。夫を事故で失くした彼女は、義母に奪われた子供を取り戻すための資金作りに、ある危険な仕事に手を染めていたのだ。それは……。
物語の舞台となるのは、カナダとの国境にあるニューヨーク州最北部の町だ。その、国と国とをへだてる大河こそ、セント・ローレンス川である。そして、ここで出会ったふたりの母親が、凍てついたこの川を渡って、ひたすら家族のために、あぶない橋をわたる、と云うのがこのお話の根幹だ。まとまったお金の欲しいライラが手掛けていたのは密入国。つまり、カナダ側からアメリカ側へ不法移民を運ぶ仕事だ。彼女は取り分の折半を条件に、同じ思いのレイに、このあぶない仕事を持ちかけるが……。
これはサスペンス狙いの映画ではけっしてない。それどころか、現代のごく平凡なアメリカの、しかも貧しい母親たちの物語なのだ。それなのに、話が進むにつれて見ている側も、そのサスペンスフルな展開にハラハラさせられてしまうのである。凍った、といえども川だ。そこをクルマで、しかも夜わたるのだからコワさもなおさらだ。
今アメリカが抱える人種問題や居留地問題、あるいは貧困など、諸々の社会問題を織り込みながらドラマは進展する。そして人種の違いから反発しあっていた女ふたりが、次第に人間同士としての信頼を築いていく姿が、見る者の感動を呼び覚まさずにはおかない。2008年のサンダンス映画祭でグランプリに輝き、あの、クェンティン・タランテーノが激賞したのもうなずける感動作だ。
(2010/12/30)