個別映画評
パーフェクト・センス
PERFECT SENSE

点数 | ![]() ![]() ![]() ![]() |
---|---|
年代 | 2011年 |
国 | イギリス |
時間 | 99分 |
監督 | デヴィッド・マッケンジー |
脚本 | キム・フップス・オーカソン |
音楽 | マックス・リヒター |
出演 | ユアン・マクレガー、エヴァ・グリーン、ユエン・ブレムナー、スティーヴン・ディレイン |
かって「シックス・センス」なるサスペンス映画の快作があったが、それは人間に備わる「五感」の他に特殊な「6番目の感覚」を持つ少年の話しだった。本作は題名どおり“完全なる感覚”そう、人間が持つその「五感」を、人類がいまだ経験したことのない異変によって一つずつ失っていくというもの。いわば誰もが感じているごく当たり前な日常が徐々に壊れていく様を、このテのSFにありがちなパニック・サスペンスではなく、男女の恋愛をからめて抒情的に描いたところがこの作品のいいところだ。
その異変は、何の前ぶれもなくある日突然発生し、またたく間に世界に拡散していく。そして、ここイギリスのグラスゴーでもその感染者が一。“SOS”と名付けられたこの奇病に感染すると、人々は悲しみの涙で泣き叫んだあと「嗅覚」を失い、ついで恐怖心に駆られて深い孤独を感じると、今度は猛烈な飢えに襲われて目に映るものを手当たり次第に喰いまくり呑みまくる。その後、我に返ると、なんと「味覚」を失っている……といった具合だ。
さらに症状が進むと、感染者は「聴覚」「視覚」「触覚」と順に失い、遂には「五感」の全てを失うことになるのだ。もちろん主人公であるシェフのユアン・マクレガーも、やがては主人公と知り合って愛しあうヒロインのエヴァ・グリーンの感染症学者も、同じ症状を呈しながら自分たちの五感を一つつずつ失っていくのだが、実はここがこの映画のヤッカイなところでもあるのだ。つまりその、カタチの無い失われていく「感覚」を“どう映像で見せるか”が、この映画の明暗を分けることになるからだ。
で、ここでは「味覚がない」状況を描くために、登場人物たちが狂ったように花や石鹸を食ったり、マスタードを一気飲みする場面で見せ、「聴覚がない」状況は、セリフのない聞こえない状態、つまり音なし映像で見せるのだが、そのどれもがザンネンながらこちらの感情に入り込んで来ないのだ。この点では失敗だったのではなかろうか。「静かなるパンデミック映画」としての狙いはおもしろいのだが、インパクトを欠くその淡々とした語り口が、作品の印象まで薄めたようでそこがちょっと惜しまれる。
(2012/05/19)