個別映画評
マドモアゼル
MADEMOISELLE

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年代 | 1966年 |
国 | イギリス/フランス |
時間 | 102分 |
監督 | トニー・リチャードソン |
脚本 | ジャン・ジュネ、マルグリット・デュラス |
音楽 | |
出演 | ジャンヌ・モロー、エットレ・マンニ、ウンベルト・オルシーニ、ジェラール・ダリュー |
水門の取っ手を黒い網目模様の手袋をした女が、力を込めて握りしめ少しづつ開けていく。すると、ちょろちよろと流れ出した水が次第に勢いを増し、やがては猛烈な水流となって下手の村に襲いかかる。あっという間の洪水に驚いた村人たちは、溺れる家畜を避難させ浮かぶ家財を運び出すなど、思わぬ水害に上を下への大騒ぎだ。そんな中、男たちのせわしない動きを見つめる冷やかな目のひとりの女がいる。村人から「マドモアゼル」と呼ばれて尊敬の念を一身に集めるJ・モローの女教師だ。物語はこんな異様な光景をさらりと見せて動き出す。
実はこの村では、この「水騒動」の外にも原因不明の火事が起きたり、家畜の飲み水に毒が盛られたりと奇怪な事件が続発していたのだ。で、その犯人については、近ごろこの村に出稼ぎに来たイタリア人E・マンニではないか、との噂が村びとたちのあいだで広まっていたのだ。
そんな中、夜になると厚化粧に身を包み、例の網目模様の手袋で自分のお気に入りのマッチを手に、こっそりと闇に紛れて動き出すマドモアゼルの姿があった。彼女はまわりにひと気のないのを確かめると、農家の納屋に積まれたワラにそっと火をつけるのだった。そう彼女こそ、昼間は小学校の教師として村人たちに尊敬されてはいるものの、抑圧された性的欲望のはけ口を満たすかのように、夜な夜な動いては異常な行動をとる女だったのだ。そしてその欲望の対象こそ、誰あろうあのイタリア人の男だったのである。
題名はもちろんフランスでの独身女性を指す清楚ですがしい呼び名だ。ところがその清楚な名の響きが、ここではゆがんだ女の“裏の顔”を指しているのだ。そして何よりそこが本作の“肝”でもあり、しかもそれがフランスの牧歌的な田園風景をモノクロで描きながら、自然音のみでノンビリゆったり見せられると、不気味さも余分に盛り上がろうと云うものだ。さらにである。女のその“ウラ”を知る唯一の人間が女教師の可愛い生徒のひとりで、しかもその子があのイタリア男の息子、とう設定もありきたりだが面白い。結局それが大勢の村人に惜しまれながら村を去る女に、陰にかくれて見送りながらひとりツバするその子の心情と重なり、女教師の異常性を思い知ることになるラストが巧い。
(2015/06/16)